佐渡島で地域との繋がりを感じて〜海を越えて
「離島プロジェクト、佐渡も行ってみませんか?」。そんな提案をしたのはもう1年と2か月前のこと。私は2023年4月にサンクスラボに入社し、地元新潟&佐渡での「在宅就労」という新しい可能性に胸を膨らませていた。その中で、新潟市のひきこもり支援センター長から紹介されたのが、佐渡で高校教師をしている尾仲先生だった。彼との出会いが、今回の佐渡でのワーケーションへと繋がっていく。
佐渡での拠点を提供してくださったのは、フレンチシェフの尾崎さん。彼は尾仲先生と共にNPO法人「探求Labo」を立ち上げ、島内の若者たちに「起業」や地域資源を活かした新しい産業を教える活動を始めている。人口減少と流出が深刻な佐渡にとって、子どもたちが島に留まり、豊かな自然の中で自分たちの未来を描けるような場を作りたい。尾崎さんのそんな想いと出会ってから1年。私たちのIT×福祉、離島でも在宅就労で障害のある人が活躍できるようにという両者の想いがようやく形になった今回のワーケーションが、その小さな一歩だった。
写真は店の前に広がる真野湾
### ワーケーション実施の背景
現在、サンクスラボを利用している離島在住者は24名(2024年10月現在)。これまでに石垣、宮古、種子島、五島、対馬、壱岐、佐渡の7つの離島で44名が利用してきた。離島での生活には、就職先や医療・モビリティといった資源不足が課題となる中、離島在住者へのニーズ調査から見えてきたのは、「人との繋がり」へのニーズが思ったよりも少なかったことだった。だが、「支援員と島内の利用者が一緒に仕事をする機会があったらどうだろう?」という壱岐の支援員南の提案に好意的な反応があったため、軽いノリで始まったのが今回のワーケーションだ。第1回目は9月に壱岐島で開催し、今回の佐渡での実施が2回目となる。
### 佐渡ワーケーションの体験記
佐渡でのワーケーションは、支援員2名(普段佐渡の訪問面談をする富樫、離島PJリーダー片山)とタレント(利用者)2名で実施された。舞台となったのは、尾崎シェフのレストラン兼ホテル「オンザ美一」。目の前に広がる真野湾の穏やかな風景の中で、仕事をしながら地域との交流が生まれていく。
9時45分、現地に集合。オンラインでの朝礼を済ませ、現地で自己紹介を兼ねた朝礼が始まった。普段の面談では見られない利用者の仕事ぶりを、佐渡市なかぽつのセンター長や、サポートステーションの支援員も見学に来てくださった。彼らが見守る中、タレントさんたちは自分の作業を説明しつつ、一つ一つ丁寧に進めていく。
昼食には、尾崎シェフが特別に用意してくれた「鶏肉とマッシュルームのハンバーグサンド」「キハダマグロとトマトのサンド」を堪能。佐渡の柿酢を使ったマヨネーズや、ごまと茄子のクリームソースなど、地元の素材を生かした料理に舌鼓を打った。みんなの顔には自然と笑みがこぼれ、特別な時間が流れていた。
シェフが作るクリームブリュレにみんな感動!
午後も作業が続く中、タレントさんたちはいつもと違う環境に少し緊張しつつも集中して取り組んでいた。14時30分から予定されていた振り返りの時間は、作業が押してしまい、尾崎シェフからの話を聞くことができなかったが、タレントさんたちからは「来てよかった」「料理が美味しくてまた来たい」といった感想が寄せられた。
最後に、尾崎シェフはこう締めくくった。「島のために何かできたらと思ってNPOを立ち上げました。今回のワーケーションが皆さんにとって良い経験になったなら嬉しいです。またいつでも来てくださいね」と、温かい言葉で送り出してくださった。
### 感想
今回のワーケーションは、普段は家で一人で働いているタレントさんたちが地域と繋がり、普段味わうことのない料理に感動し、新しい緊張感の中で仕事をするという貴重な体験の場となった。障害があることで生じる経済的格差は、経験や体験の格差にも繋がってしまう。しかし、地域との繋がりやソーシャルデザイン次第では、その格差を縮めることができる。サンクスラボの在宅就労とワーケーションは、そうしたソーシャルデザインの一つであり、地域や社会と再び繋がるための小さな一歩となる可能性を秘めている。今回の佐渡での経験は、そのことを改めて実感させてくれる旅だった。(記事:片山尚哉)